対抗運動の国際的連帯とエスペラント

北海道から送られてきた文章をもうひとつ転載する。

北海道自由エスペラント協会代表の宮沢さんが、ソウルで開かれた「ザメンホフ祭」(ザメンホフの誕生日に合わせて各国で開かれる)で挨拶した内容。このソウルのザメンホフ祭は、社会運動志向のエスペランティストが集まったもので、新しいグループの設立集会でもあった。若いアナキストたちも参加していたそうだ。

韓国でのエスペラントの最盛期は80年代後半で、当時の民主化運動の潮流と結びついた社会運動志向のものだったという。「エスペラントは社会運動から離れると力を失う」と、中心的なメンバーは語っていたとのこと。

宮沢さんは、エスペラント・グループのほか、市民運動の活動家らとも意見交換してきた。「なぜ日本の労組や政党はG8に反対しないのだ」といぶかしがられたそうだ。反グローバリゼーションの運動が存在しないのか、と聞かれたらしい。

以下の発言において、宮沢さんは、エスペラントが、その直接性、簡易性において、反グローバリゼーションの国際共同闘争(たとえば一昨年の香港WTO闘争のような)の現場で、国際連帯のシンボルとして、また実践的な次元で大きな役割を果たしうると主張している。



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韓国闘うエスペランチストグループ設立集会での
北海道自由エスペラント協会代表の発言



G8サミットとエスペランチストの役割          2007年12月15日


■G8サミットとは何か

2008年G8サミットは7月7日から9日まで日本の北海道で主要8カ国(アメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、フランス、日本、ロシア)の首脳会議が行われる。それまでに環境大臣会議(神戸)、外相会議(京都)、財務相会議(大阪)など各大臣の会議が日本各地で行われる。このサミットは毎年8カ国持ち回りで開催している。2007年はドイツ、ハイリゲンダムであった。

G8サミットは、貧困、環境破壊、戦争の拡大を招いてきた新自由主義的なグローバリゼーションの有力な仕組みとして機能している。それは1973年のアメリカ、西ドイツ、フランス、イギリスの4カ国による蔵相会議までさかのぼれる。サミットは戦後の国際経済秩序をささえた金・ドル本位制の崩壊と、オイルショックに対して国際新秩序を模索してはじまった。現在はグローバル化・ボーダレス化した経済問題、安全保障、治安問題などをあつかっているため「グローバルガバナンス」(地球統治)と呼ばれることも多い。

G8サミットの政策は、「新自由主義」というイデオロギーにもとづいている。「新自由主義」の政策には5つの柱がある。

1.関税障壁の撤廃(農産物の輸入自由化
2.公共部門の民営化(鉄道、郵便、医療、水道、教育などの諸分野に民間参入)
3.労働の柔軟化(労働法制の基準緩和、非正規雇用の推進)
4.規制緩和(金融、資本投資の規制、環境規制などの緩和)
5.警察国家化(テロ対策、移民管理の強化)

サミットに参加する国々はIMF世界銀行自由貿易協定などを通じて、世界中のあらゆる国々を「新自由主義」へと方向づけてきた。世界は多国籍企業を中心とする巨大企業の利益を優先し、大多数の人々を貧困に陥れる方向に突き動かされている。

このG8サミットは国連から委託されたものでもなければ、各国の国会から承認されたものでもない。まったくの私的な会合である。そもそも参加各国の人口は全部あわせても全世界の14パーセントにしかすぎない。にもかかわらず全世界の利権はこのようにG8に集中している。全世界の国民生産の3分の2、地球上の二酸化炭素の排出量は47パーセント、エイズを含む医療特許権の80パーセント、武器輸出の90パーセント、軍事支出は60パーセント、IMFに対する投票権の48パーセント、世界銀行に対しては47パーセントにもなる。G8諸国はその非民主性を隠し、世界に対する大きな責任があるにもかかわらず、自らの利害調整と見せかけの人道主義で世界中の人々をだまそうとしている。


■対抗運動とエスペランチストの役割


1.平等と国際主義のシンボル

このような欺瞞的なG8サミットに対して特にヨーロッパでは、アナキストコミュニスト、NGO組織などがゆるやかなネットワークをつくり、国際的な反サミットあるいはオルタナティブサミットの運動で大きく対抗している。2007年ドイツでは10万人もの人々がサミット会場を包囲した。

しかしアジアではヨーロッパのような大規模な国際的対抗運動は実現していない。これはアジアにおいてサミットの矛盾が現れていないというわけではない。さまざまな社会的歴史的要因を考えることができるが、ひとつ大きく取り上げることができるのは、言語の障壁の存在である。私は10年以上日本の公式の英語教育を受けてきたわけだが、細かい打ち合わせをする際、ヨーロッパからの一通の英語のメール(たぶん彼は30分程で書いたに違いない)を解読するのに2日間、返信するのに3日間ついやしている。私たちは運動の中でも不平等と非効率に直面する。

このアジアの状況下、エスペランチストはその存在自体、言語の壁をのりこえる平等と国際主義のシンボルとしての存在意義があるといえる。

2.情報の共有

インターネットが普及し、携帯で撮った写真をその場で送れるようになったにもかかわらず、民衆の運動での国際通信は限られたものになっている。写真にエスペラントのキャプション(いつ、誰が、どこで、何を、なんのために)をつけるだけで立派な国際情報になりえる。これならエスペラントを習いたての初心者にもできることだ。必要なのは闘うエスペランチストの国際ネットワークだ。この集会はそのためにもある。

3.互いの経験と立場の理解と尊重

相互理解と相互尊重は決して長々と続く議論の中からは生まれてはこない。共同の戦いの中での議論と実践の中から生み出されてゆく。粘り強い努力とエスペラントの能力も要求される。にもかかわらず私はこの点についても常に楽天的だ。なぜなら私たちは共通の理想を持ち、共通の敵がいるのだから。

4.国際共同闘争

それぞれの母国で行う闘いを国際的に結び付ける場合、通信員の役割は大切になる。だが、どこか一ヵ所に集まる国際闘争の場合、通訳や国際連絡などがはるかに重要で複雑になっていく。敵がグローバリズムを推し進めてくる中で、私たちが肩をならべて闘い国際連帯を実感することがますます重要になっている。私たちは資金的困難やコミュニケーションの困難を乗り越えてあらゆる可能性を追求していくことになる。

そして、どの国際会議でも無視していた“やくざな”言語で意志を統一したさまざまな民族からなる国際部隊の登場に、世界の帝国主義者たちがふるえあがる日がくるのを、私は夢みるのである。


北海道自由エスペラント協会
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