悲しき「いるぼんローカル」

「Counter Attack!」(韓米FTA反対 メディア文化行動/韓国)
http://www.youtube.com/watch?v=rgnTXcHuJmY&mode=related&search=

05年12月の香港での反WTO行動の映像を編集したビデオを見つけた。曲は日本にも来たことがある労働歌謡集団「コッタジ」の「反撃」(注1)。香港の路上に展開された運動の力強さと表現の豊かさがよくわかる作品だ。映像も、韓国のグループらしくアカ抜けている。

こちらの香港の作品も「らしい」ですね。
「香港WTO MC6 Protest video」(香港樹仁大学院新聞与伝播学系)
http://www.youtube.com/watch?v=UV4KfCLQNT0&mode=related&search=


香港で開かれたWTO閣僚会議への抗議行動は、地元香港のほか、韓国、台湾、タイ、フィリピン、日本などから労働者、農民団体、市民運動が駆けつけるという、東・東南アジア史上初めての国際的共同行動だった。会議開催期間中、「デモの平均参加者数は7000人程度」(注2)、香港警察との衝突で逮捕された人は1100人、そのうち日本人1人を含む14人が起訴(内11人はすぐに起訴取り下げ)された。韓国の農民運動は、そのなかで最も戦闘的だったようだ。

起訴された日本人のNさんは帰国後、救援会のHPにこんなアピールを寄せている。

「数千人の仲間が一週間にわたって香港市内を闊歩し・・・特に韓国の仲間は、『死の行列を止めるため』のたたかいとして、警察との激しいぶつかり合いだけでなく、民族の楽器を打ち鳴らし、たたかいの歌を歌ったり、路上に寝転がったり土下座をしたり祈りをあげたりと、多彩で豊かな表現で私たちを惹きつけ続けました。香港市民も私自身も、その情熱あふれる姿、力強い説得力に強く感動し、共感したのです。」「警察との衝突の際にも、私は右にインドネシアの仲間、左に台湾の仲間とスクラムを組んでいたのです。」(注3)

しかし残念ながら、こうした行動があったという事実すら日本の新聞ではほとんどまともに取り上げられなかったし、ネット上では例によって「韓国人が暴力デモを輸出」といった、いるぼんローカルな与太話として消費されて終わった。中央日報日本語版サイトにあった以下のような書き込みがいい例だ。

「本当に日本人が居るのか疑わしい。 日本の新聞で何処もその様な記事を載せていない。 捏造ではないですか? 日本人としてまともな常識を持てば、このように非常識な行動に出ることは有り得ません。 いい加減な記事を載せるのは下賎の仕業です。 この韓国人の行く末は火病ですね。」(06年1月6日。記事「香港で起訴された韓国人11人と日本人1人、断食闘争へ」)

「非常識な行動」などという幼稚な発想を振りかざすこの書き込みを笑うのは簡単だが、韓国の社会運動をたとえば「60年代の日本のようなもの」といった見当違いな発展段階論(?)で理解して安心しようとする言説ならば、メインストリームでも少なくない。しかしそうした捉え方でも、なぜ「暴力デモ」が香港に「輸出」されるのか、ということは、やはり理解できまい。

言わずもがなであるが、香港での反WTO行動は、世界的に展開されている反グローバル化運動の一環であり、同様に国際的共同行動が組まれたシアトルやジェノバからの流れのうえにあった。「韓国人の暴力デモ」についても、下のような反グロ運動の世界的な同時代性のなかに置いてみれば、さして珍しいものでもない。

「Battle of Seattle」(1999年。シアトルでのWTO閣僚会議への抗議行動)
http://www.youtube.com/watch?v=fLqhu8AyR8w&mode=related&search=


「Genova」(2001年。ジェノバでのG8サミットへの抗議行動)
http://www.youtube.com/watch?v=4gZPgGtBCJA


「暴力デモ」もある国と、その可能性を想像もできない国。「非常識」なのはどちらなのだろうか。むしろ日本人の認識のメガネの方を一度は疑ってみるべきなのではないか。日本の言論空間が、政治的想像力の貧困のなかに閉じられつつあるのを感じて、悲しくもあるし、恐ろしくもある。


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(注1)
こんな歌詞です(「コッタジ応援団」HPより)
http://www.jca.apc.org/~ozawa/new%20cd.html

(注2)
「香港平和デモとWTO行動」(「ピープルズ・プラン」06年冬号)から
(注3)
2006年1月16日「N君帰国アピール」(「反WTO闘争救援会」ブログ)より。
http://anti-wto.seesaa.net/
香港のメディアに韓国の農民たちが大人気だったという話は、この行動に参加した知人からも聞いた。また、14人の起訴に対しては、東京で中国大使館への抗議行動が行われた。しかし警察の妨害はひどく、香港から帰ってきたひとが「これは香港警察より何倍もひどい。日本は警察国家だ」と語ったとのこと。
http://list.jca.apc.org/public/aml/2005-December/004902.html