中国新左派知識人による天安門事件総括

若い頃参加していたある運動がひとつの決着を迎えたとき、ぼくはそこで出会った「師匠」に、ぜひ「総括」を書いてほしい、と言ったことがある。彼はぼくに大衆運動や歴史について生き生きとした見方を教えてくれた師匠であった。彼は、ぼくの求めに対してこう答えた。
「総括っていうのはね、単に起こったことを書けばできるというものじゃないんだ。その運動が、未来につながる何を準備していたのかが見えたときに、初めて総括と呼べるものになるんだ」
今はまだ、そういうものは見えてこない、と言って彼はソファーに横になった。そのまま、総括はついに書かれなかった。運動の総括というのは簡単ではないのだ。

汪暉「天安門で挫折した中国の社会運動」は、論文「一九八九年の社会運動と中国の『新自由主義』の歴史的根源」(汪暉『思想空間としての現代中国』岩波書店06年)のダイジェスト版である。彼自身が参加した(※)天安門事件を、未来につながる意味をもったものとして「総括」した、緻密であるとともに運動的な熱いテクストとなっている。目からウロコとはまさにこのことか、という思いでぼくは一気に読んでしまった。

天安門で挫折した中国の社会運動」(ルモンド・ディプロマティーク 2002年4月)
http://www.diplo.jp/articles02/0204-3.html

下手な要約はしない。ぜひ実物を読んで頂きたい。関心をもった方は『思想空間としての現代中国』もぜひ読んで頂きたいと思う。「一九八九年の社会運動と〜」以外の収録論文も非常に刺激的だ。

汪暉は、中国国内外で活躍している「新左派」の代表的知識人である。おそらく彼の思想は、運動次元では、温鉄軍らの農村再建運動や知識人による労働者の実態調査など、「社会主義市場経済」のもたらした矛盾と格闘する社会運動と共鳴しあっているのではないかと思う。

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(※)
6月4日の朝まで広場に残ったうちの一人だった。その後農村に「下放」されている。
(ブログ「壊れる前に」06年10月16日
http://eunheui.cocolog-nifty.com/blog/2006/10/post_c8da.html