自衛隊が海外で「治安維持」作戦をおこなう日

自民党国防部会の防衛政策小委員会(石破茂委員長)が14日、これまで時限立法で行ってきた自衛隊の海外派兵をあらかじめ可能とするための恒久法案の概要をまとめたという。いくつかの記事から知るところによれば、そのポイントは以下の通り。

・国連決議や国際機関の要請がない場合でも、国会承認を得れば派兵が可能。
・派遣先国の軍事組織への軍事訓練を可能とする。
・派遣可能な地域は「非戦闘地域」ではなくて「非国際的武力紛争地域」。
自衛隊の海外での任務は「PKO」「人道支援」「後方支援」「治安維持」「警 護」「船舶検査」。
・武器使用は「暴動」対処などに加え「特に必要があると認める相当の理由がある場合」認める。

以上である。
国連決議なし、とはイラク戦争のようなアメリカの単独攻撃を、任務のうちの「船舶検査」は現在アメリカが進めるPSI(核拡散防止構想)への海自の投入を指すのだろう。

ここではとくに「治安維持」「非国際的武力紛争地域」という言葉について注意を促したい。
治安を維持するというとおまわりさんよろしく街をパトロールするというイメージが浮かぶかもしれない。実際、政府は今後そうしたイメージ作りにいそしむだろうし、新聞の議論もそれにひっぱられるだろう。だがおそらくそれは正しくない。

米軍が90年代に発明した概念にMOOTW(Military Operations Other Than War 戦争以外の軍事行動)というものがある。対ゲリラ戦から災害救助まで、国家間の戦争の範疇に入らない作戦をこう呼ぶ。悪名高いあのファルージャ攻撃も、MOOTWに含まれる。「戦争」ではない。米軍の概念では準警察行動なのだ。

これを踏まえて、まず「非『国際的武力紛争』地域」という言葉の意味をよく噛みしめて欲しい。ここで否定されている「国際的武力紛争」とは、複数の国家が関わる紛争、つまり正規軍同士の戦争を指すと思われる。逆にいえば、いったん敵国政府が粉砕された後のゲリラとの抗争は戦争ではなく、いわば「『非国際的』武力紛争」ということになる。

『非国際的』武力紛争が頻発する地域で治安を維持するということは、当然ながらゲリラの掃討を含まなければならない。自衛隊の側がパトロールだけで済ましたいと思っても、向こうがそれを許さないだろう。「特に必要があると認める相当の理由がある場合」は、武器を使用して治安回復のために行動せざるを得ない。

この法案で想定されているのは、憲法の禁じる「国権の発動たる戦争」とは異なるMOOTWとしての準警察的軍事行動なのである。たとえばイラクのように米軍が占領した敵国で、あるいは国家の支配の及ばない地域で、米軍とともに「安定化」のための活動をすること。すなわち現在のイラクでイギリス軍が行っているような任務に他ならない。だが、日中戦争でもベトナム戦争でも経験したように、そして現在イラクで米英軍が経験しているように、こうした「準警察的軍事行動」ほど、苛烈なものはない。市民を巻き込む街なかでの銃撃戦。一軒一軒の家探し。仕掛け爆弾。

いつの日か、スーダンソマリアかあるいはイランで、自衛隊がこうした任務のために派遣されるのだろうか。そのときは、現在「離島防衛」なる想定を掲げて米軍海兵隊と共同で対ゲリラ戦訓練を行っている西部方面普通科連隊や、米陸軍第1軍団司令部とともに座間に設置される中央即応集団司令部指揮下の特殊作戦群が活躍することになるのだろう。「グローバルな日米同盟」の終着点である。